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* 月下三章・四章(アップ用修正版)

日時: 2011/07/16(土) 13:34:34 メンテ
名前: 越後三沢

ども、三沢です。
アップ用(三章はどうしても直したかったところを修正した版)で、新たに書いたパートはありません。

BDさん、お手数ですがよろしくお願いします。
 
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* Re: 月下三章・四章(アップ用修正版) ( No.1 )
日時: 2011/07/16(土) 13:35:10 メンテ
名前: 越後三沢


第三章


 セルス・イウサールがその少女に抱いた第一印象は、「不思議な子だな」であった。
 だが結局、それは第一印象だけに留まらなかった。
 第二、第三……そして、本質的な印象が、不思議な娘。
 メドゥーシア・アージェントは、そういう少女だった。


「えー、んじゃちっと質問に答えてもらいたいんだけど」

 プラスチックのボードを持ったセルスは、少女に声をかけた。
 彼女が顎を揺らすビンタを積極的に放ってきたのは十五分ほど前のことで、今は落ち着いているように見える。
 もっとも、落ち着かせたのはセルスの功労かもしれない。
 少女は、日陰の座りやすい岩場で、ギンギンに冷えたレモネードを啜っているというVIP待遇にあった。

「……ん」

 多少の警戒心と、レモネードを味わう喜びを瞳の中に混じらせ、見上げてくる。

「一応俺軍人だから、不審な機体とパイロットは調べないといけないんで」

「不審?」

 少し不満気味な声をあげ、少女は自分の青い機体を見る。この子の何が不審なのか、と言いたげである。

 しかし実際問題として激しく不審であった。
 何しろ、機体を隠す前に見つかったため、彼女が『家出のエース』から学んできた偽装工作は一切為されていない。
 セルスが、撃麗を資料の上ででも知っていれば、いきなりアウトであったろう。

 だが、幸運にもそれはなかった。
 セルスの知識は何故か羅甲に偏っており、アムステラの特機については素人レベルしか知らなかったのである。
 撃麗は他のアムステラの特機とは異なる製造過程を経ており、マテリアルオーブが付いていないことも有利に働いた。

「んじゃ、まず……どこの国の所属?」

 敵である、という要素を自分で勝手に排除して、定型的な質問を投げかける。
 
「ア……」

 脊髄反射で「アムステラ」と答えようとした少女が硬直する。

「ア?」

 灼熱の砂漠で、冷や汗がたらり。ようやく、自分がいかに危険な橋を渡っているか理解できたらしい。

「……ア……ええと、ア……」

 しかし、言ってしまった一文字を取り消す気はないようで、何とか続きを律儀に考える。
 ふと、基地を出る直前に誰かから聞いた国名が浮かぶ。頭文字は図らずもアであり、躊躇いなく口に出す。

「……アスパラ王国っ!」

「何だその王国!?」

 口に出した少女のあまりの『やってしまった顔』があってもなお、嘘に聞こえない言霊であった。
 嘘ならもう少しまともな国名があろう。
 国名が恥ずかしいから言い淀んだのか、と柄にもなく同情してしまうセルス。

「……特産品は、アスパラガス」

「何となくわかる」

 嘘を誤魔化すために、嘘は増えていく。
 とりあえず、アジアの新興国ということで話は強引にまとまる。

「次、名前」

「メドゥーシア・ア……」

 脊髄反射で「アージェント」と答えようとした少女が再び硬直する。
 メドゥーシアの名は友軍でも知らない者が多いが、『アージェント三姉妹』なら地球にも知られていてもおかしくない。

「……アスパラ」

「またアスパラか!?」

 メドゥーシア・アスパラ(偽名)爆誕の瞬間であった。 

「ええと……姓が国の名前と同じってことは……王族だったりするのか?」

 変な名前だ、とか無粋なことは言わず疑問を投げかける。

「……う、うん」

「ふぅん……お姫様、なのか……」

 不思議な空気が、二人の間を流れる。
 少女は何かを思い出すように地面を見つめ、少年は神妙な顔をして天を仰ぐ。

「……もうすぐ日暮れだ。こうしてる場合じゃないな……ええと……メドゥーシア……姫?」

 呼び方を迷うような声に、少し申し訳なさそうな声が返る。

「……姫はいいよ。あと、私の名前呼びにくいから……好きに略して」

「メドゥーシア……シアでいい?」

「……っ!!」

 想定もしなかった愛称のようで、ぼふっ、と顔が真っ赤になる。

「……メディで」

「え?」

「メディって呼んで。お姉ちゃん達もそう呼ぶし……」

「りょーかい。じゃあメディ、街に案内するから機体に乗ってくれ。ええと……」

「……撃麗」

 さすがに、愛機の名前を偽ることはせず、正直に告げる。
 その名にも心当たりはなく、というかアスパラ関係がようやく出てこなかったことに安心して、セルスは頷く。
 
「ゲキレイな。見たとこ、普通に走れるよな? 今出たら、日没前には街に着くから。」

「で、でも、私用事があって……」

「つっても、夜の砂漠はヤバイって。凍死しちまうし、第一捜索になんないだろ」

「捜索って……」

「伝説のカード。だろ?」

「!?」

 先ほどまでの質問事項に、メディがここへ来た目的は入っていなかった。
 しかしセルスは、彼女が自分と同じ物を捜していると確信していた。
 そう思った理由は、まったく分からなかったが……

「目的が同じなら、しばらく組もうぜ、メディ!」

 アルメイサムのコクピットへ駆け上るその足取りは、いつもよりさらに軽やかだった。


※※※
* Re: 月下三章・四章(アップ用修正版) ( No.2 )
日時: 2011/07/16(土) 13:36:23 メンテ
名前: 越後三沢


 メドゥーシア・アージェントがその少年に抱いた第一印象は、「失礼な男の子」であった。
 これは、出会い方に問題があったため、まあ仕方がないと言えよう。
 その後の印象は、目まぐるしく変化していく。
 頼りになると思ったり、間違っていると思ったり……無理やり一言で言うと、何故かとっても気になる。
 セルス・イウサールは、そんな少年だった。
 

「一投入魂、バンブゥゥゥゥゥ、ストライク!!!」

「……うわぁぁぁっ!?」

「これで、32勝31敗2分けで俺の勝ち越しだな!」

「……違うよ、私の32勝32敗1分け、ラシャお母さんの晩御飯中断1回で、まだ五分だよ」

「まあ、あれはほぼメディの勝ちだったけど、根に持ってんなぁ……」

「ねぇねぇ、おわったおわった?」

 激しい戦い(カードゲーム内)が終わり、甘えるのを自重していたセルスの弟妹達が二人に飛びかかってくる。
 4歳になる女の子の双子が、メディの肩によじ登り、ポニーテールを引っ張る。

「そのバンブーストライク……非効率的だよ、グリーンをほとんど捨ててるじゃない」

「まあ、それがこいつの見せ場だからなぁ。あと、メディが多分予測できないだろうと思って」

 言いながら、8歳の弟のガトリングパンチを片手で全てキャッチしているセルス。

「……! それなら、次はそこまで読みきる……」

「うーん」

「何?」

 勝者の困ったような顔を見て、メディは目をちょっと吊り上げる。

「無理じゃね?」

「!!」

「確かに、相手のカードや戦略読むことは大事だけどさ。全部読めるわけないだろ? それに、読み過ぎて失敗ってこともあるぜ?」

「…………」

 当たり前のことを、当たり前の口調で言われている……それだけに、心に深く突き刺さる。
 今、自分が抱えている問題点が、露わにされているようで、たまらなく恥ずかしい。
 この少年に全部相談し、アドバイスをもらったら、もしかしたら自分の問題は全て解決してしまうのかもしれない。
 本気で信じているわけじゃないけれど、願いを叶えてくれるカードなんてものを探すより、手っ取り早いのは間違いない。
 でも……

「さ、そろそろ行こうぜ。まだ暑さがマシなうちに捜索しないと」

「……うん」

 出会ってから二日、帰る勇気もないままに、メディはセルスの家、イウサール家に居候してしまっている。
 捜索していない時間はいつも家でセルスとカードゲームをしていて、いつの間にか家族とも仲良くなってしまった。
 どう考えても、非効率的で無駄な……でも、何故か終わらせたくない、時間。
 そんな不思議な時間の中に、メディはいた。


※※※


セルスとメディの伝説のカード捜索大作戦は、二人の特徴を反映して、大胆かつ繊細なものであった。
 目的の地区まで行くと、撃麗が高度なセンサー類を駆使してあらゆる情報を収集する。
 アルメイサムはというと、地形の悪いところで撃麗を支えたり、コードで撃麗に電力を供給したりと、完全にサポートを担当している。
 この電力供給は、家出中、単独でのエネルギー補給ができない撃麗のためにメディが考えた苦肉の策である。
 電子兵装機器だけとはいえ、地球の電力で動くように改造してしまうあたり、天才少女の本領発揮と言えよう。
 
 センサーを稼働させている時間は、パイロット(特にセルス)にするべきことはさほどない。
 そんな時間は、二人はずっと会話していた。
 
「つまり、この伝説のカードに俺達が惹かれるのは、機動兵器乗りってことが関係してる、ってことか?」

「……うん。こんなバカみたいな伝説だけど、操へ……機動兵器のパイロットが大真面目に探しにきている記録を、いくつか見つけた」

「そういや、俺も一人会ったことがあるなあ。その人は一人で探すって俺と組むの断ったあげく、結局、俺何してたんだろって白けた顔して帰ったけど」

「……この伝説には、なにか秘密がある……と、思う」

 かたかたかた、とメディの指が動き始めた。電磁波などを計測したデータを分析しているのだ。

「何か出たか?」

「う、うーん……何かある気もするけど、やっぱり、よくわかんない……」

「ま、そろそろ時間だし、続きは明日にして、今日は帰るか」

「うん」

 一日の捜索が終了すると、二人と二機は連れ立って街に戻る。
 初日は驚いていた街の人々も、今は笑って迎えてくれる。
 同じ時間に通る車などには、見憶えのあるものもある。大半は街に戻ってくる車だが、一台だけ……

「……ねぇ、セルス」

「ん?」

「あの車……」

「あのツギハギだらけのジープがどうかしたか?」

「毎日、見るよね。夜になるのに、砂漠に出て行ってる」

「見たとこ、でっかい筒積んでるから、望遠鏡での天体観測とかじゃねえの?」

「……そっか」

「早く行こうぜ、母さんのシチューが待ってる」

 その声に、メディは視線をジープから街に戻す。
 ……その瞬間、ジープに乗っている人が、こちらを見ている気がしたが……
 すでに心の中はシチューで一杯で、それ以上考えはしなかった。


※※※
* Re: 月下三章・四章(アップ用修正版) ( No.3 )
日時: 2011/07/16(土) 13:36:58 メンテ
名前: 越後三沢


「しっかし、忌々しいほど仲がいいわね、あの二機。」

「あの青ヒョロ、悪名高きステラ隊なんだろ? どうせ小汚い潜入任務だろ!」

「いひっ、そうでしょう、そうあるべきでしょう……」

 セルスが『ツギハギだらけ』と称したジープには、三人が乗っていた。
 後ろで悠々と座っている、茶色の長髪を持つ女性。
 助手席で苛立たしげに腕を組んでいる、スキンヘッドの巨漢。
 そして、運転している神経質そうな眼鏡の青年。

「あの女の部下……というか妹だったかしら? だからそうでしょうね、どうせ。でも、当面の目的は私達と一緒みたいよ?」

「探し方はズレてるがな」

「仕方がありませぇん、彼らは我々のように、ボスの完璧な指令を受けてないわけですからぁ」

「俺達に顔も見せないボス様だがな! ええぃ、ムカつくぜ」

 巨漢が、カーナビに見えるモニターを操作すると、顔の見えないシルエットが映し出される。どうやら、録画画像のようだ。

「いいか、ジューネ、ボーグ、クリック」

 合成音声が、三人の部下の名前を呼ぶ。
 
「言うとおりにすれば、必ずあれが我々『セルキス』の手に入る……今までで最高の宝が……」

 宇宙に散らばるオーパーツロボを収集、または強奪する組織『セルキス』。
 活動はすべてここにいる三人が行っており、ボスは命令と報酬を送り付けるだけで、三人と直接会ったこともない。
 それでもこの組織が成り立つのは、ボスの指示が、常に異様なほど的確であるからに他ならない。

「まったく、そうじゃないと困るよ。ったくアムステラに取り入るのにも随分かかったってのに、今度は天体観測! 儲けが全然見えてこなくてやだわ、ホント」

「さっさとそのお宝と戦わせろっての! ってなあ」

 茶髪の女性、ジューネが溜息を付き、スキンヘッドの巨漢、ボーグが息まく。
 だが、眼鏡の青年、クリックは一人違うことを呟いていた。

「いひっ、今日も発見できますかねぇ……生きのいいのが」 

「いい加減にしやがれ! お前が修理フェチだってのは知ってるが、砂漠に転がってるスクラップ操兵を修理すんのはやめろ!」

「いひっ」

 怒鳴られても、その笑みは崩れない。引きつるような含み笑いが、日の沈んだ砂漠に染み透る。

「まだまだ使えるのにねぇ……」


※※※


 翌日の捜索中、メディは考え事をしているようであまり話さなかった。
 セルスも、あえて話題を振ろうとはせず、淡々と作業が進んでいく。
 そろそろ今日も終わりかという所で、データ解析を終えたメディが久しぶりに口を開く。

「……やっぱり、この電磁波は変。自然じゃない。」

「それが唯一の手がかりかあ。でも、発生源が分からないんだろ?」

「うん、それはまだ……」

 これだけ調べても発生源が分からない。それは、意図的に隠匿されている可能性を示唆していた。

「とりあえず、この数日のデータの変化を分析してみたよ」

 アルメイサムのコクピットのモニターに、撃麗からデータが送られてくる。
 論文かと見紛うほど複雑な調査記録の末尾に、見やすく作られたグラフがあった。迷わず、そちらだけ見ることにする。

「一昨日より昨日、昨日より今日の方が電磁波が強い。かな?」

「日ごとの変化もあるんだけど、……時間も。特に夕方ほど強くなってる」

「その声は、夜まで続けたいって声だな」

「……うん」

 今まで、毎日の捜索は夕方で切り上げていた。だが手がかりがその後の時間にあるなら、延長しないわけにはいかない。

「ま、アルメイサムの電力は何とかなる。もうすぐ満月で明るい夜だし、いけるかなー」

「……月」

 言われて、メディは空を見上げる。
 セルスの言うとおり、ほぼ球形にまで満ちた月が、暮れなずむ砂漠の空に浮かんでいる。

「データの変化……もしかしたら、月齢……」

「ど、どうした!」

「……ちょっと黙ってて」

 その『ちょっと』は全然ちょっとではなかったが、仕方ないのでセルスはおとなしく待っていた。
 猛然と、キーボードを叩き始めるメディ。
 ここ数日のデータだけではなく、セルスにもらった、長期間の気象データまで、高速で解析していく。

「……ここ数日で日に日に強くなってるってことは、満月に近づくほど強くなってる、とも言える。それに、くもりより、晴れ。月がよく見える日、時間帯に強い」

「それって、まるで」

「うん。月の観測でもしてるみたい、だね。この電磁波を出している何かが」

「観測……」

「…………あ、でたっ!」

「えええっ!?」

 セルスの反射神経が無ければ、事故になっていたかもしれない。
 データの解析が終わり、電磁波の発生場所が特定できた瞬間、撃麗が全速力で走りだしたのだ。……アルメイサムとコードで繋がれたまま。

「ちょ、ちょい待てっ!」

 ぶつからず、コードが引きちぎれない絶妙な距離でしばらく追って、走りながら丁寧にコードを外す。
 その後も、何度も転びそうになる撃麗をフォローしながら、ひたすら走る。
 そして、二人と二機は、その場所に到着した。見覚えがある場所に。

「ここ、なのか!?」

「……うん。私とセルスが、最初に会った岩場」

「すげえ、偶然……それとも最初から、何かに呼ばれてたってことか……?」

「……」

 それには答えず、メディは撃麗の片膝をつき、起動停止させる。
 この数日の練習で、自分で降りられるようになったメディは、アルメイサムの停止を待たず、砂上に降り立つ。

「待てっ、待てって!」

 迷い無き足取りで歩む少女を、セルスは俊足でやっと追いつく。
 二人は、入り組んだ岩場の影の、人一人通るのがやっとという穴の前にいた。

 何の躊躇いも見せず、メディは洞穴に入っていき、セルスはまた慌てて追う。
 まるで人が通る為に作られた通廊のような穴を。

 ……緩やかな下り道を、10分ほど進んだだろうか?
 そこには、大空洞と呼んでいい場所があった。

 しかし、二人を驚愕させたのは、その広さではなかった。

「メディっ!」

 セルスが、メディを『それ』から庇うように前に出る。
 同時に、『それ』はレンズの目をセルスの方に向け、こう呟いた。

「該当要素……確認、55%。下方修正」

「な、何だ!?」

「カスタま……ズモードで起動致しマす」

 その頭部は獣……百獣の王、獅子の面。
 元は、全面を装甲で包まれていたと思われる無骨な胴体は、わずかな動きでも全てが流動する、精密な人工筋肉が露出している。
 大空洞でも立った状態では収まらないその巨体は片膝をついた状態であり、まるで誰かに忠誠を誓うような佇まい。

「ようこそ……本日のプログラむを、起動しマすか?」

 そして、獅子面から紡がれる音声は……驚くほど、穏やかだった。
 
* Re: 月下三章・四章(アップ用修正版) ( No.4 )
日時: 2011/07/16(土) 13:38:00 メンテ
名前: 越後三沢

第四章


 月光など射すはずもない地底の大空洞は、不思議と暖かな光で満たされていた。
 セルスは辺りを見回すも、それらしき照明器具は存在しない。ただ当たり前のように、光がある。

「本日のプログラむを、起動しマすか?」

 そういえば、目の前の巨体から紡がれる声にも、光と同じ印象を感じる。抑揚の少ない合成音声なのに、相手を落ち着かせるような穏やかな響きがある。

「……セルス?」

 背後に庇ったメディが、おずおずと声をかけてくる。服の裾を引っ張っているが、怖がっているのではなく、何か言いたいようだ。

「この機体、いったい……エジプト軍の秘密兵器とか」

「いやいやいや、ないないない」

 確かに、国外から来たメディがそう思うことに無理はないが、しかしあり得ない。下っ端とはいえ、開発部にも顔を出しているセルスの知らないところで、こんな超兵器が作られているはずはない。
第一、エジプト軍の技術力は、イスラエル産のヴァーチャーを改造したアルヘナを改造してアルメイサムを作るぐらいが限度。新機軸の機体を一から生み出す地力は無い。

 となると、地球人が機動兵器を開発する遥か以前より存在する、オーパーツロボと考えるのが自然だ。単に、アムステラが侵略の為送り込んできた新型兵器と考えることもできるが……

「違うと思う……うん、違うよ、きっと。アムステラの操兵じゃない」

 こちらに関しては、メディにかなり自信がありそうだった。

「そうだな、伝説のカードの伝承はアムステラが攻めてくるずっと前からあるんだし……とと」

 そこまで言って、セルスは顔をしかめた。

「ってか、待てよ。伝説のカードと、この巨大ロボに一体何の関係が……」

 普通に考えれば、関連するはずのない事項だが、二人はここ数日、その二つの接点について話し合っていた。
 幾人もの機動兵器のパイロットが、大真面目に伝説のカードを探しに来ていたことを。

「……この機体がその人たちをを呼んでいた?」

「で、そいつらはこのロボと会って、まさか殺られ……」

「それは誤解です」

「「!!??」」

 眼前の巨体が、俄かに二人の会話に割り込んできた。

「話は聞かせていただきマしたが、誤解と偏見に満ち溢れていると言わざるを得マせん」

 丁寧な口調だが、表現は結構乱暴だった。ただし、攻撃的な印象もない。一番近い印象としては、『拗ねている』だろうか。

「確かに、本プログラむを起動させに訪れた方は複数おられマすが、こちらから呼びつけたことはありマせん。また、プログラむシャットダウン時には皆さマお帰りになられマした」

「その、ぷろぐらむってなんですか? それをクリアすれば、伝説のカードが手に入るんですか?」

 興味が出てきたらしいメディが、セルスの横から顔を覗かせながら聞いた。

「本プログラむは、あなた方の資質を測り、また伸ばすためのモのです。クリア時に得られるモのについては……伝説のカード、という表現方法が適切かは別として、概ね肯定です」

「テストみたいなもんか? もしくはゲーム?」

「その両方だと思う」

「概ね肯定です」

「メディ、なんか順応してるなぁ」

「そう?」

 プログラムという自分の得意分野が出てきたからか、何だか少し嬉しそうだ。
 機嫌がいいのはいいことだと安心しつつ、セルスは獅子面を見上げた。

「ところで、まだ俺達、あんたが何者……いや、何ロボか聞いてないんだよな」

「私の機能詳細につきマしては、あなた方には知る権利が今のところありマせん」

「いまのところ、ってことは、プログラムをクリアすれば教えてくれるのか?」

「肯定です。また、プログラむの中でいくつか私の機能を使用するたメ、自ずから判明するとも言えマす」

「名前も教えてくれないのか?」

「正式名称につきマしては、現在データベースに登録がありマせん。好きな呼称で呼んでいただいて結構です。参考までに履歴を紹介いたしマす。スフィンクス、ホルアクティ、まヘス……」

「基本、エジプト神話なんだな。確かに、スフィンクスはそれっぽい」

 くいくいっ。
 セルスが感心していると、後ろからメディが携帯端末の画面を見せてきた。
 そこには、すでに数十種類の名前候補が挙がって、うち半分はすでに自分で却下されていた。

「付ける気満々だなあ」

 確かに、機体に自分で名前を付けるというのはセルスも未経験だった。メディが検索してきたエジプト神話のデータと睨めっこしつつ、二人で悩むほど十分。

「ところで、本日のプログラむを……」

 さらに二十分。

「……スリープもードに移行していいですか」

 心なしか、合成音声のテンションが落ちている。

「待ってくれ、ほぼ決まったんだけど……」

「決マりマしたか」

「うん、お前の名前はアクティオンだ」

「ちがうよ、アクティだよ!」

「どちらですか」

「そこを揉めてるんだ。なあメディ、アクティオンの方がカッコイイだろ!」

「アクティの方がかわいい」

 少年と少女のロマンが、砂漠の地下で今ぶつかり合っていた。

「巨大ロボに可愛さを求めてどーするんだよ」

「ひどい」

 セルスから離れて、不確定名アクティオンもしくはアクティの足元に近寄るメディ。
 愛おしげに、その表面を撫でる。

「セルスがひどいこと言うよ、アクティ」

「マったく嘆かわしいことです」

「懐柔された!」

 思わぬ展開に、頭を抱えるセルス。結局、名称決定までに、そこから三十分を要することになる。
その名は、『アクティオン。ただし、愛称はアクティ』となった。
 

※※※
* Re: 月下三章・四章(アップ用修正版) ( No.5 )
日時: 2011/07/16(土) 13:38:42 メンテ
名前: 越後三沢


「それでは、改めて本日のプログラむを起動しマす」

 アクティオンは、今までに何度繰り返してきたかもう分からない台詞を言った。
 というか、今日に限っても、もう何度繰り返したか分からない。
 記憶媒体のエラーを疑いつつ、プログラムを起動させる。

「プログラむ、カスタまーズモードで起動しました」

「カスタマーズ? カスタマイズとかじゃないのか?」

「……お客さん用のモードってことじゃない?」

「お客さん……ってことはつまり、今からやるのはあくまで体験版ってことか?」

「うん、たぶん。でもそのへんもクリアしないと教えてもらえないんじゃないかな」

 名称を決定するのにえらく揉めていた二人は、打って変わって和やかにアクティオンのプログラムについて考察していた。
 考察が正確かつ自己完結していたため、アクティオンは特に口を挟まなかった。

「それでは、ファーストレッスンです。私が今から出題する問題に答えてください」

「レッスン……? ええと、とりあえずクイズってことだな?」

 データベースを全検索し、一問目に相応しい問題を選び出す。
 検索には一秒とかからないが、演出上、多少もったいぶってから出題する。

「では問題です。朝は」

 ポニーテールの斜め上に、ぴょこんと手が挙がった。

「人間」

「…………正解です」

「やった!」

 純粋に喜びを見せるメディの前で、アクティオンは肩を震わせる。

「い、今の問題はですね、有名なスフィンクスの……」

「いや、俺地元民だし、メディが完璧に知ってる以上もう解説は……」

「そ、そうですか……」

 露骨な落胆の動きに、セルスは慌ててメディに駆け寄る。

「メディ、結構ナイーブだぞアクティのやつ。次はせめて問題を最後まで聞いてやろうぜ。今のだと、朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足……」

「どんどんいいよ、アクティ!」

 メディは聞く耳持たず、いつでも挙手できる態勢で、瞳をキラキラ輝かせていた。
 そこまで期待されて、高性能オーパーツAIとしては、問題を出し続けないわけにはいかなかった。

「アまゾ」

「ポロロッカ!」

「……正解です」

「すでにパターンを全部読んだ!?」

 ……わずか二十分後。
ファーストレッスンの結果は、五十問中五十問正解(回答者はすべてメディ)で、あっさりクリアとなった。
 
「……気を取り直してセカンドレッスンです」

「うんまあ、気を取り直してくれ、アクティ」

「友情に感謝しマす、セルス」

 哀愁漂う合成音声の横で、地底空間の光が揺らぐ。どこにも光源が見当たらないのに、スポットライトから放たれたような幾重もの光が、アクティオンと二人の間を照らす。
 
「少し離れてください」

 慌てて後ずさる二人の前の地面に、マス目が浮かび上がる。

「8×8……ってことは……あっ!」

 そして、光が激しく、複雑に絡み合う。
 思わず目を閉じた二人が目を開いて見たのは、マス目に整然とそびえ立つ、白と黒の駒だった。

「立体映像(ホログラム)……これがあなたの機能なの、アクティ?」

「そうです」

「バーチャルなチェスの駒……こいつぁ、リアルだなぁ。本当にホログラム?」

 好奇心を剥きだしに、駒の一つに触れるセルス。

「ん、いや、あるじゃん実体」

「もう少し強く押してミてください」

「こうか? ……と、うおっ!」

 体重をかけて寄りかかると、途端に駒は抵抗を失い、手がすり抜ける。バランス感覚に優れるセルスは特に転びもせず、純粋に驚いた様子で何度も触る。

「へえ、ほらメディ来てみろよ! 軽く触っただけだと、実体があるようにしか思えないぜ」

 とことことメディがやってきて、慎重な手つきで何度か触れる。
 そして、携帯端末に数式を打ち込み始める。

「完璧な質感を再現するホログラム……ってことかな? ほんとにあるものだ、と思ってしまうことで、自分で手を止めてしまうから、すりぬけない……」

「……」

 アクティオンは、態度には出さないものの驚愕していた。『自分でも今は良くわからない』自らの機能を、目の前の少女は迅速に、明解に解き明かしていっているのだから。
 
「さて、セカンドレッスンは見ての通り、チェスの勝負です」

「ちぇす。そういうゲームがあるって、聞いたことはあるよ」

「俺、ルールと駒の動かし方しか知らないんだけど」

「じゅうぶんだよ、教えて。細かいルールまで全部」

「……うん」

 この少女は……。
 アクティオンは、制御できない衝動に襲われ、最初に二人が現れた時に使ったセンサーをもう一度起動させた。

「(……該当要素、75%……85%、さらに上昇……!?)」

 それは、アクティオン自身がすでにその意味を忘れてしまった、プログラムの根幹を成すセンサー。それが、メディに強く反応している。あり得ないほどに……

「……アクティ?」

 センサーを向けている当の相手からの不安げな視線に、アクティオンはシステムの制御を取り戻した。

「失礼しマした。それでは、チェス勝負を開始致しマす」

「手加減しないでね」

 元々、この勝負は手加減を前提としたものだった。アクティオンはチェスというゲームを完全に解析しており、実力を半分以下に抑えなければ、人間とはそもそも勝負にならないレベルなのだ。
 しかし、今回に限りアクティオンは、いきなり、カスタマーズモードの限界まで戦術レベルを解放した。
 ……そうでなくては勝負にならない。その予感があったからだ。

「ポーンをD4に」

 メディの言葉に合わせて、白い駒が滑らかに動く。
 ……対戦は、停滞時間はほとんどなく、手数のわりに短時間で終わった。
 横から見ていたセルスにはピンと来ていないようだが、それは二人の『格付け』の儀式のようなものだった。

「……チェックメイト」

 メディの、冷静ながら嬉しそうな声が、勝負を締めくくった。

「おメでとうございマす」

 アクティオンの声には、今回は拗ねた響きも落胆の響きもなかった。
 彼のシステムの中の、休眠していたプログラムが一つ、また一つと再起動を始めていた。


※※※
* Re: 月下三章・四章(アップ用修正版) ( No.6 )
日時: 2011/07/16(土) 13:39:14 メンテ
名前: 越後三沢


「ふわぁ」

 千の色の光が揺らめき、舞うように踊る砂漠の地下空洞。
 派手ではあるが目に優しい仕様になっているのか、慣れてきたメディの口から欠伸が漏れる。
 時計を見ると、すでに明け方近く。
 ステラにバレたらタダでは済まない夜更かしである。
 もっとも、家出中の今となっては、ステラに怒られる理由はもう数えきれないほどであるが。
 考えるだに恐ろしかったので、少し離れたところで戦う少年に目を向ける。

「……! ……こいつでっ、……どうだぁぁぁぁぁっ!!」

「……よく頑張るなぁ、セルス」

 セルスは、サードレッスンであるカードゲーム勝負(十本先取)に挑んでいた。
 一進一退の戦いを続けながらも、勝ち星は順調に拾い集めており、九勝二敗の大幅勝ち越しとなっていた。

 アクティオンの立体映像によって表現されたカードバトルは大いに刺激的だったが、メディはセルスの戦いぶりに目を奪われていた。

 特に強いカードを揃えている、というわけではない。
 大家族の家計を一人で支えている状況では、カードゲームにつぎ込めるのは普通の子どもの小遣い程度。
 カードデータはネットで落としてきた、という古代兵器ロボ(?)としてあるまじき発言を先ほどしたアクティオンに優っているはずはない。
 
 完璧な戦術を駆使する、というわけでもない。
 大雑把に見えて、意外と効率的な戦い方をするが、ゲーム仲間がほとんどいない為、経験値は並以下。
 メディから見れば明らかな相手の罠にあっさりはまってしまったりもしている。

 並外れて運がいいわけでもなく、もちろんイカサマなどとは縁がない。
 そんなわけだから、もちろん絶対に勝つというわけではない。
 それでもその勝率は高く、何より彼の戦いは、必ずといっていいほど盛り上がる展開になっていた。

「……かかりマしたね、セルス!」
「やるなアクティ! だがここで! こいつにすべてを賭ける!」

 状況に恵まれなくても腐らず、その場で出来ることをやる。
 いざとなれば勘に任せて身を投げ出す。
 相手の強さを認め、相手の動きに柔軟に対応する。

「はぁ……」

 的確な分析が出来ていることに、逆に落ち込む。
 それらは、自分にはできないことばかり。
 だからと言って、セルスに特有のスキルとも思えない。 
 その全てをさらけ出し、真っ直ぐに向かっていく性格だから分かりやすく目に映るだけで、誰でもできる、やっていることなのだ。

 思考は、カードゲームから、操兵での戦闘へ移っていく。
 メディと撃麗だけならともかく、三姉妹が揃った『ステラ隊』は総合力の高い強力な小隊だ。
 機体の性能はもちろん、姉二人の戦闘技術はアムステラでもトップクラス。
 エウリアは運、ステラは裏技と言った点にも長けている。

 ただし、メディが指揮をした場合、全てはチグハグになってしまう。
 戦術知識はあっても、少しイレギュラーがあっただけでパニックになってしまう。
 敵の動きを読み切る才能はあっても、読み切った先の対応力が低く、
 メディの戦いは、相手を完全封殺するか、もしくは読み過ぎたあげくの自滅という両極端なパターンが多い。

「それで、私のミスを、お姉ちゃんたちがカバーしようとしてくれて……なんだ、私、」

 いない方がいいじゃない、という言葉は出せなくて飲み込む。

「わかるのに、わからない」

 自分のダメなところはわかる、でもどうやって直したらいいかわからない。
 カードゲームでもいつもそんな感じなのだ。

 ここ数日、「セルスにアドバイスをもらったら解決するかも」なんてことを考えていた。
 でもたぶん、それはセルスと自分との埋めがたい差を痛感するだけになる……

「……勝った!!」

 全力で楽しむ。
 言葉で言うと簡単だが、どうしても自分にはできないこと。

 でも……セルスの家でやった、弟や妹たちに囲まれてのカードゲームの中で、少し。ほんの少しだけ。
 セルスが真っ向から表現してくれるそれを感じることはできたと思っている。
 そう、もっと、

『セルス と 戦えば』

 もしかしたら……

 その表現の持つ複雑な響きの意味に自分では気付かず、メディは心の中でその言葉を繰り返す。

「戦えば、もしかしたら……」

「おーいメディ、どうしたー?」

「わっ」

「悪いな、時間くっちまって。眠かったろ。とりあえずクリアしたぞ?」

「あ、うん、……おめでとう」

 眠いふりをして、目を伏せながら、彼の健闘を称える。
 もう少し見ていたかったが、それももう、終わりだ。
 さあ、伝説のカードの謎を解いて……

「ではフォースレッスンです」

「「えっ?」」

「えっではありマせん。まだまだこれからです!」

 いちいち、いじらしく悔しさを表現する巨大ロボが、左右の肩を揺らし始めた。
 肩パッドのように見えた部分が上に開き、意外に洗練されたデザインのコクピットがその姿を現す。

「アクティ、お前コクピットとかあったんだな」

 当たり前といえば当たり前だが、ここまで自律機動する機動兵器には確かに、似つかわしくない。

「それも複座式……ふたつあってひとつも使ってないってすごいね」

「褒められている気がしマせんが」

 実際、褒めていない少年少女のコメントに不満を漏らしながら、アクティオンは準備を進める。

「フォースレッスンは、このコクピットを使っての、シミュレーション戦闘です。お二人とも、機体の設計データや整備仕様書等ありマしたら、お持ちください」
 
「了解。伝説のカードを巡るイベントだから、カードバトルがラストでもよかったけど、ま! やっぱりパイロットとしてはこれがないとな」

 セルスは心から嬉しそうに、指をポキポキ鳴らしている。
 メディも……

「うん、そうだね」

 少しだけ、同じ想いで笑うことができていた。

「そうこなくっちゃ、だね」


続く
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